笑い話 言葉のお葬式 ③ 騎士道精神
- white-eagle1958
- 2021年3月19日
- 読了時間: 2分
2021.03.19
大きな風車の前に見渡す限りの墓標がありました。そこで神父が聖書を読んでいると、ロバにまたがった一人の旅人が通りかかりました。
「神父さん、こんな所で何やってんの?」
旅人はロバから降りて言いました。
「ああ、此れはドン・キホーテさん、お久しぶりですね。此れからどちらへ?」
「相変わらずの気ままな一人旅ですよ。風の吹くまま、気の向くままってね。で、神父さんは何を?」
「私ですか?私は言葉のお葬式をしているんです」
「は?言葉のお葬式だって?何ですか、それは?」
「今では、死語になってしまった言葉をこうして弔っているんです」
「死語になった言葉を弔っているって?・・・で、誰を弔っているんです?」
「騎士道精神です」
「何だって?!騎士道精神が死語になったって?!」
「そうなんですよ。貴方の頃は闘うにしても正々堂々、名乗りを挙げたものですが、いまじゃ決闘だって正体を現さず、不意打ちで相手を襲い、大勢で寄ってたかってリンチに掛ける有様です。勝てれば何でもいいんでしょうねえ、何とも情けない時代になったものです」
「それじゃ、騎士なんてものは・・・」
「ええ、一人もいなくなりました・・・領民を守り、正義を守るお人はね・・・いるのは、勝つためなら手段を択ばない、ずるくて卑怯な輩ばかりです。それが何とも哀しくてねえ…」
「これ、全部が騎士なのかい?」
ドン・キホーテさんは沢山の墓標を前に呟きました。
「いいえ、これらは殺された農民や市民達です・・・」
「なんだって!誰がそんな事を!・・・」
神父さんは無言で、ゆっくりと回る風車を見上げました。
「風車?」
神父さんは悲しげに首を振りました。そしてもう一度風車を見つめたのです。
「?・・・あっ!そうなのか!」
ドン・キホーテさんは風車の奥に見える、高い壁に囲まれた壮麗な宮殿に気が付きました。
「そうか・・・分かった・・・」
ドン・キホーテさんは言うなりロバにまたがりました。その顔は赤く高調してました。
「行くぞ、ロシナンテ!いざ、出陣!」
ドン・キホーテさんは風車に向かってまっしぐらに駆けて行きました。
おしまい
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