笑い話 言葉のお葬式 ④ キリスト教
- white-eagle1958
- 2021年3月20日
- 読了時間: 2分
2021.03.20
ここは、何処だ? 司祭は、白い霧の中を彷徨い歩いていました。見えるのは足元の大地だけ。前も霧、後ろも霧で、何処をどう歩いてきたのかも分かりません。
途方に暮れていると、前方にぼんやりとした光が現れました。何だろうと近づいていくと急に霧が晴れ、一面の墓標の海に出たのです。
なんだ?ここは? 司祭が息が詰まる思いをしていると、奥の方に人影が見えました。
何だか懐かしい気がして寄っていくと、その人は跪き、神に祈りを捧げている様でした。
「お聞きしたいのだが、ここは何て言う場所で、貴方は何をしているんです?」
その人は立ち上がり司祭に向き合うと、静かに言いました。
「ここは、キリスト教の墓場です。私はその弔いをしています」
「何ですと!キリスト教の墓場?」
「その通りです・・・」
その人は力なく呟くと墓標の海に眼をやりました。
「どうしてそんな事に?」
「それは貴方が良くご存知のはず・・・」
「それは、どういう意味ですか?」
「教えが形だけのものになりました。人々は教会には行きます。そこで教えを学びます。ですが、一歩教会の外へ出ると教えを忘れてしまうのです。相変わらず嘘をつき、盗み、奪い、そして殺すのです。悲しい事ですが・・・」
「するとこの十字架は・・・」
「そうです。人々が忘れ去ったキリスト教です・・・」
「そんなはずはありません!人々は教えを守っております!何かの間違いではないですか?」
「人種が違うとどうですか?民族が違うと?身分が違ったら?或いは宗教が違ったら?
お分かりでしょう。その時人々は教えを忘れてしまうのです」
「・・・貴方は一体どなた・・・そのお顔は・・・」
その人は優しく微笑みました。
「ミリエル様、ミリエル様!」
「ん、ああ君か・・・つい、うたた寝をしてしまったようだ。どうした?」
「どうしたじゃないですよ。姿が見えないんで探しましたよ。こんな所で寝ないでくださいよ。風邪引きますよ!」
「すまないな。で、何か起きたのか?」
「そうそう、ジャベール警視と言う方がお見えになってます。何でもお話したい事があるそうで・・・」
「ジャベール警視?知らないな。何用だろう?・・・」
「さあ?・・・どうします?厄介事ならいつもの手で行きますか?」
「そう言う訳にもいくまい。警視だしな。一応会ってみるか」
「では、そのように」
若い修道士が、面談所へ先駆けて行こうとした時、ミリエル司教が気が付き、声を掛けました。
「君、此処に有った燭台を知らないか?」
「さあ?・・・私は知りませんが・・・」
「そうか、まあ、いい・・・」
ミリエル司教はゆっくりと面談所へ歩き出しました。
おしまい
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