笑い話 言葉のお葬式
- white-eagle1958
- 2020年12月22日
- 読了時間: 4分
2020.12.20
言葉のお葬式 ②
柴又で、一人の僧侶が墓標を前に念仏を唱えていました。
そこへ通りかかった、山高帽を被り背広を羽織った男が声を掛けました。
「坊さん、こんな所でなにやってんだい?」
「やあ、これは寅さん、お久しぶりです・・・ いえね、言葉のお葬式です」
「はあ? 言葉のお葬式だあ?珍しいことやってんねえ。どういうことなんだい?」
「今では、死語になってしまった言葉をこうして弔っているんですよ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「そいつは誰なのよ?」
不思議そうな顔で寅さんがいいました。
「この方は、任侠です」
「任侠だって?任侠が死語になっちまったてえのかい?どうして死んじまったんだ?」
「それが、今時弱きを助け、強きを挫くなんて言うのは流行らないらしいですね。みんな長い物には巻かれろ、寄らば大樹の陰とやらで仲間がいなくなってしまったようで」
「それでどうなったんだ?」
「一人寂しく孤独死」
「なんだって?任侠が孤独死したあ・・・」
寅さんは呆然と立ち尽くすのでした。ふと我に返ったのか坊さんを見て
「坊さんよ」
「何でしょう?」
「少ないけど、こいつでそいつを懇ろに弔っちゃあくれまいか?そのままじゃあ、そいつが余りにも寂しすぎらあな」
寅さんは懐から財布を取り出し、何枚かのお金を坊さんに手渡すのでした。
「分かりました。そうしましょう。寅さんは男ですねえ・・・」
そう言った時、寅さんの姿は何処にもありませんでした。
2020.12.8
言葉のお葬式 ①
道端で、一人の僧侶が幾つかの墓標を前に念仏を唱えていました。
そこへ通りかかった男が声を掛けました。
「やあ、坊さん。こんな所で何やってるんだい?」
「おや、ジョン.ウエィンさん、久しぶりですね。お元気そうで何より」
「俺は元気さ。で、何をしてるんだ?」
「言葉のお葬式です」
「なんだって?言葉のお葬式だあ?なんでまたお前さん、そんなことを?」
「今では死語になってしまった言葉をこうして弔っているんですよ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「ああっ~!」
ジョンさんの目が丸くなりました。
「死語になった言葉を弔っているだあ? 珍しい事をやってるな、で、そいつは誰なんだい?」
「ジャスティスです」
「おい、本当か?ジャスティスが死語になっちまったてえのかい?」
僧侶は頷いて言いました。
「そうなんですよ」
「どうしてそんな事になったんだ?」
「真っ直ぐで曲がった事の嫌いなお方でしたがね、やんごとなきお人に逆らったのが悪かったんでしょうね・・・ある時待ち伏せされて蜂の巣にされてしまったんですよ」
「ジャスティスが蜂の巣にされちまったって?どおりで地上は闇になるわけだ・・・その左は誰なんだい?」
ジョンさんは左隣のみすぼらしい墓標に目をやりました。
「この方ですか・・・」
僧侶は目に悲しみを浮かべました。
「この方はフリーダムです」
「なに?フリーダムまで死語に・・・」
ジョンさんは言葉を失いました。
「この方はまさしく自由奔放、言いたいことを言い、やりたい事をやってたんですが、それがまたやんごとなきお人の気に障ったんでしょうね・・・」
「どうなったんだ?」
「捕まって鎖でぐるぐる巻きにされ、木に吊るされたんですよ・・・」
「なんて事だ!フリーダムまでいなくなるなんて!」
「まったく悲しい事です」
「それじゃ地上は・・・」
「ええ、息苦しくなっております」
ジョンさんはため息をつきました。そして、さらに左の少し寂しげな墓標を指差し
「そいつは?」と言いました。
「ああ、この方はオネスティです」
「なんとオネスティまで死語!」
ジョンさんは頭を抱えました。
「教えてくれ!こいつはどんな死に方をしたんだ?」
「孤独死です」
「孤独死って、どういう事なんだ?」
「ビリージョエルさんの頃から寂し気だったんですが、近年では誰にも相手にされなくなりましてね、ついには孤独死というわけです」
「なんてこった。それじゃ地上は」
「お察しの通り、噓つきだらけです」
ジョンさんは天を仰ぎました。とその時目の前に、とても大きな墓標があるのに気が付きました。大きすぎて目に入らなかったのです。
「おい、あれは何だ?あんなに大きな墓は見たことがない。あれは誰なんだ?」
「ああ、あれですか。ついに気が付いてしまいましたか・・・」
「あれは誰だ?」
僧侶は無言で、固く口を閉ざしたままでした。
「あいつは誰だ?なんで死んだんだ?いつ?どうやって?」
ジョンさんは僧侶を激しく揺さぶりました。
「分かりました。手を放してください、ジョンさん。今話ます」
そう言って僧侶は襟を正し、話し始めました。
「あのお方は人気者でした」
「人気者?」
「そうです。明るくて陽気で自由で、チャレンジ精神が旺盛な気のいいお方でした。
それが・・・」
「それが、どうしたって?」
「ある時飛行機を2機ぶっつけられて死にました」
「なんだって?飛行機2機ぶっつけられて死んだって?どうやったらそんな死に方するんだ?」
「しかもジャンボジェット」
「オーマイガー!」
「非常に丈夫で強いお方でしたが、さすがに堪らなかったんでしょうね。あっという間に崩れてしまいました。後には何にも残りませんでした。とても残念でなりません」
「そりゃあ、飛行機2機ぶっつけられりゃあそうなるだろうよ。そいつの名前は?」
「名前は忘れましたが、死んだ日付は墓標に刻んであります。裏に回ってごらんなさい」
「そうか、どれどれ」
ジョンさんは墓標に沿って歩き始めました。しばらく歩いてようやく裏に回り、刻んである日付を読み上げました。
「2001年9月11日か・・・」
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