小説 ここに愛はありますか? ①
- white-eagle1958
- 2021年3月26日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年5月21日
2021.01.11
街郊外の林の中に、木造の小さな一軒家が在ります。暖かくなってきたとは言え、まだ春先。それでも庭の花々は、少しづつ彩りを増やしていました。空が次第に明るくなり、日の光が窓を照らし始める頃、マイケル少年は小鳥のさえずりで目を覚ましました。
「良く寝たーっ!ここは?」
大きく伸びをし、周りを見回すと、窓際に、いつもしょ気ている大きな熊のぬいぐるみが目に留まりました。
「ああ、そうか、僕んちだ。そのまま寝ちゃったんだっけ・・・」
出かけたままの服装に気づき、マイケルはベッドから抜け出しました。
と、ダイニングから、お父さんの不機嫌な声が聞こえて来ました。
「あいつは、まだ寝てるのか?」
「あちこち歩き回って、だいぶ疲れたみたいね・・・それからあんたに聞きたい事が有るんだけど・・・」
お母さんがハムエッグの皿を並べます。
「大体あいつは、一体何処をほっつき歩いてたんだ?何の連絡も寄こさず」
「さあ?・・・帰って来るなりご飯も食べずに寝ちゃったからねえ・・・」
「そこはお前が躾るとこだろ?お前が、しっかりしないから」
「何よ、私の所為にする訳?あの子の鉄砲玉はあんた譲りよ、分かんないの?」
少年は忍び足でダイニングに近づくと、そっと中を伺いました。
「こないだだって買い物頼んだら、行先も聞かずに飛び出ちゃって何時間も帰ってこないんだから。あんたと同じよ」
「えっ、俺がいつそんな事した?いい加減な事言うと」
途端にお母さんがキッチンを叩き付けると、衝撃でスプーンが落ちました。
お父さんの目が丸くなりました。
「じゃあ言わせてもらいますけどね。あの子が飛び出した後、あんたも追いかけて行ったわよね?その後何処へ行ってたの?行ったっきり帰ってこないんだから。もう一つ聞きたい事が有るんだけど!」
「何だよ? 藪から棒に」
「あんた、私を愛してる?」
お母さんがお父さんに詰め寄りました。
「急に何でそんな事・・・愛してるに決まってるだろ?愛してるに・・・」
「本当?じゃ、何処行ってたのよ?何処に?」
お母さんがさらに詰め寄ると、お父さんがジリジリ後退しました。
「あれは・・・・・・・ 探してたんだ、探してたんだけど、昔の友達に偶然会って久しぶりに飲もうかって話になって・・・」
「飲んだんだ。子供の事忘れて」
「懐かしくて、つい飲みすぎちまったんだよ。それ以外は」
今度はお母さんの目が大きくなりました。
「それ以外はぁ?あんた帰って来るなり何て言ったか覚えてる?」
「えっ? 俺、何か言ったのか?・・・何て言ったんだ?」
「あいつと会ってくれないかって!」
「・・・・・・それは・・・・・・・もう一度だけ・・・・・・・」
「もう一度だけ?まさか、本気で言ってるんじゃないでしょうね?」
「・・・・・・・・」
「本気なんだ・・・・・・・」
言った切、お父さんとお母さんは黙り込みました。
(一体、何の話をしているんだろう?)
その只ならぬ様子にマイケルは、ふと目を反らしました。息が詰まりそうな時間に、耐えられなくなったのか、お母さんが口を切りました。
「もう終わりね!さよなら!」
お母さんはエプロンを脱ぎ捨てると、急ぎ足で自分の部屋に駆け込み、キャリーバッグに衣類や身の回りの物を詰め込み始めました。
「お母さん、何処行くの?」
「決めてないけど、この家を出る!」
言いながらクローゼットを勢いよく開けました。
「ダメだよ。行かないで!」
「お父さんとは一緒に暮らせない!」
貴重品を次々にバッグに詰め込んでいきました。
「いやだよ。どうして?」
「お父さんに聞いて!」
「お父さん!お母さんはどうして出て往くの?」
「・・・・・・・・」
「お母さん!どうして?」
「・・・お父さんを愛せなくなった・・・」
荷物で膨らんだバッグを、身体全体で圧し掛かるようにして閉じました。
「愛?愛って何?」
「・・・幻だったのかもしれない・・・」
そう言ったお母さんの眼は、どこか遠くを見つめている様でした。
「マボロシ?」
キャリーバッグを引いて玄関ドアに向かうお母さんの前に、お父さんが立ち塞がりました。
「出て往くのか?・・・」
「どいてよ。当分帰らない」
「嫌だよ。出て往かないでよ。お母さん!」
腕をつかみ、甲高く叫んだマイケルの眼には涙が浮かんでいました。
振り向きざまに
「お父さん!止めてよ!」
叫びましたが、何故かお父さんは身動き一つせず、出て往くお母さんを見送るだけでした。
「お父さん!何で止めないの?どうして往かせるの?どうして・・・」
マイケルの突き刺す様な視線に、お父さんは何も言う事が出来ませんでした。
ほんのひと時少年は佇んでいましたが、何を思ったのか部屋に駆け込むとバッグを背負い、家を飛び出しました。
「お前まで出て往くのか?」
マイケルの背中にお父さんの寂しげな声が追いつき、少年を振り向かせました。
「違うよ!・・・愛を探して持って来る!」
そう言うと、マイケルはまた駆けて行きました。
コメント