子供達へのお話 物覚えの悪いサンタさん ⑨
- white-eagle1958
- 11月14日
- 読了時間: 3分
2025.11.10
お爺さん達がスオ社長の大邸宅に着いた頃、辺りはすっかり暗くなり、眼下には街の灯り点いた夜景が拡がって居ました。
「どうする?あるじ」
「取り敢えず屋敷を一周してくれ。入れそうなところを探す」
「了解、あるじ」
ノースとサーミは、広いお屋敷を回り始めました。
と半周した所で裏口と思われるドアを発見したのです。
「ここにしよう。ノースとサーミは裏山にでも隠れていてくれ」
サンタさんは裏口の前に降り立ちました。
「カギは持ってるの?」
サンタさんのカギはどんな家でも入れるカギなのです。
「おばさんがちゃんと用意していてくれた。有り難い事だ・・・」
「おばさんに感謝しなくちゃね」
「そうだな、御蔭で助かっている」
サンタさんはカギを使って裏口のドアを開け、一旦中に入りましたが、すぐに顔を出し
「念のため聞いておくが、引き上げの合図は判って居るな?」
「判ってる。あるじ。あるじじゃないぞ」
「もちろん、心配しないで」
「なら、いい」
そう言ってサンタさんは、屋敷の中に入って行きました。
お屋敷の調理場は、すでに招待客に出す料理とワインのボトルで一杯でした。
料理人も料理長を始め、緊張が走って居ます。すると支配人が慌ただしく入って来て
「おい、料理はまだか?皆待ってるぞ」
「はい、今すぐ」
料理長がそう答えるや否や料理人に向かって
「オードブルから出せ」
「はい、料理長」
一斉に料理人たちが大皿を手に動き出しました。次々に料理カウンターに皿を並べると、待ち構えていたボーイ達がこれまた次々と大皿を手に調理場を出て行くのでした。
赤い服を着たサンタさんが袋を担いで現れたのは、この時だったのです。
見とがめた支配人が刺すような目で口を開きました。
「何用ですか、貴方様は?今忙しいので後にして頂けませんか?」
「いや、失礼しました。美味しそうな匂いに誘われましてな。ついふらふらと・・・
お詫びに此れを貴方に・・・」
そう言ってサンタさんは袋から一本の赤いバラを取り出し、うやうやしく支配人に差し出すと
「・・・これはどうも・・・」
支配人は顔を緩めました。
「サンタさん、会場は此処じゃない。私に付いて来な」
オードブルを手にしたボーイさんが、こっちだと言わんばかりに首を振るのでした。
サンタさんは調理場を振り返り
「皆さん、お邪魔しました。私はこれにて退場しましょう。では、皆さん、ハッピークリスマス」
そう言って一礼をし、ボーイさんの後について行きました。
後に残った料理人達は、それぞれに
「何なんだ?あのサンタクロース。一体どこから来たんだ?」
「上手く仮装したよなあ・・・まるで本物・・・」
「おい皆、手が止まってるぞ。オードブルが済んだら次の料理だ。ぼやっとするな」
「はい料理長」
料理人達は一斉に答えると、また忙しく動き始めました。
支配人はバラを手にしたまま、何か思いを巡らしているようでした・・・
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