子供達へのお話 物覚えの悪いサンタさん ⑧
- white-eagle1958
- 11月8日
- 読了時間: 5分
更新日:11月10日
2025.11.08
お城の様な大邸宅前では、何かの催し物があるのか、ひっきりなしに車が出入りして居ました。
「あるじ、ピーターパンがいる」
「その隣は海賊ね、フック船長かしら?」
「どうやら仮装パーティーらしいな」
皆は口々にそう言うと、そのままソリを玄関前に横付けしました。
ピーターパンとフック船長は目を丸くして
「何だ?あんた達は?今日はスオ社長のハロウィンパーティーなんだぞ。そんな恰好で入るつもりか?」
「いや、私はここのお嬢さんにちょっと用事があって」
「ミーシャ嬢にか?」
そう言うとフック船長は、お爺さんを上から下までじろじろと眺めまわすと
「ダメだ、ここはお前の様な者が来るところじゃない。帰れ」
「しかし、私は・・・」
「お爺さん、招待状は持ってきてるのかい?」
ピーターパンが気の毒そうに言いました。
「いや、招待状はないが、私はこう言う者でして」
お爺さんは名刺をピーターパンに差し出しましたが、ピーターパンは
「サンタクロースだあ?あのなあ、お爺さん、サンタクロースならサンタクロースらしい格好をしてくれなきゃ困るよ。そんな浮浪児みたいな者を入れる訳にはいかない」
「しかし私は本当にサンタクロースで・・・」
「どの道招待状が無ければ、入れる訳にはいかないよ。さあ、他の人達の邪魔になる。
帰った、帰った」
二人はお爺さんを押し返して、追い出してしまいました。
お爺さんはすごすごと引き返すと、ソリを門の外へ出しました。
「どうする?あるじ・・・」
「困ったわね、家に入れなきゃどうにもならない・・・」
お爺さんはソリを走らせながら、思案顔です。すると急に
「あっ、思い出した。ノース、サーミ。止めてくれ。何とかなるかもしれない」
ノースとサーミがソリを止めると、お爺さんは積んで来た荷物から、おばさんが渡してくれたカバンを取り出しました。
お爺さんはそのカバンを開けると何故だか笑みを浮かべたのです。
「どうした?あるじ。気味が悪いぞ」
「ノース、サーミ。喜べ、此れで何とかなる」
お爺さんは、真っ赤なサンタ服を手にそう言ったのです。
おばさんが渡してくれたカバンには、なんとサンタクロース用品が一式詰まっていたのでした。
「これで入るの?でも招待状は?」
「私にそんな物が必要だと思うかね?」
「忍び込むの?いつもの様に?」
「私はこれでもサンタクロースだぞ・・・」
お爺さんは、いたずらっ子のように片目を瞑って見せると直ぐに着替え始めました。
暫くするとそこにはサンタクロースそのものが現れたのです。
「直ぐに入るのか?あるじ」
「いや、今すぐじゃない。ノース、サーミ。ちょっと街へ行ってくれないか。用意したい物が有る」
「何を?」
「プレゼントだ、プレゼント」
「プレゼント?どうするの?」
「皆に配るのさ。さあ行ってくれ」
お爺さんが手綱を波打たせると、ソリは夕暮れの灯りが点り始めた街に向かって走り始めました。
すっかり日暮れた街の一角にその花屋さんはありました。
そろそろ店仕舞いしようかと娘さんが花桶を店に片づけ始めた矢先、声がしました。
「お~い、ちょっと待ってくれ」
何かと思い、後ろを振り返るといきなりソリが花屋の前に滑り込んできたのです。
しかも真っ赤な服のサンタクロースが・・・
花屋の娘さんは驚きの余り声も出ない様でした。
「あの~、サンタ・・・さん?」
「いかにも、私はサンタクロースだ。閉店間際で申し訳ないが、花を買いたい。バラを200本ばかりだ。色々取り交ぜても結構。一本ずつ分けてもらえると有り難い。大至急頼む」
「そんな口早に言われても・・・何処かへお使いですか?」
娘さんは戸惑いを隠せませんでした。
「そう。あの山の中腹にある大邸宅なんだよ。名前はえ~と、誰だっけ?」
「あるじい・・・」
「あのスオ社長の所ですか?そう言えば、今日あそこでハロウィンパーティーがあるとか・・・ああ、それで貴方はサンタクロースの恰好をしてるんですね。よくお似合いですよ。本物かと思いました」
「いや、私は本物・・・まあいいか。とにかく大急ぎで頼む。代金は此れで足りるかな?」
サンタのお爺さんはお金の入った小袋を娘さんに手渡しました。
娘さんは袋の中身を少し見て
「充分です。すぐに作業を始めますね」
そう言って仕事に取り掛かったのです。
数十分後には一つ一つ丁寧に包装され、リボンを付けた色取り取りのバラの花が200本揃いました。
「どうするんですか?これ?・・・持ってくの大変ですよ」
花屋の娘さんは、出来上がった花束を前にしてお爺さんに尋ねました。
「心配ない。私には此れがある」
お爺さんはカバンから50㎝四方の袋を取り出してそう言いました。
「何ですか?その袋。それじゃ余りに小さくて入りませんよ」
「心配ない、まあ見ててご覧」
お爺さんはそんな事は気にしないとばかりに笑みを浮かべ、袋の口を大きく広げました。
次の瞬間、バラの花束が次から次へと袋の中に吸い込まれていったのです。
「えっ」
娘さんは驚きの声を挙げましたが、もうその時には総てのバラが、置いてあった場所から消え去って居ました。娘さんは目をぱちくりするばかりでした。
「どうしてこんな事ができるの?・・・もしかして本物のサンタさんなの?」
お爺さんは人差し指を口に立て、
「この事は内緒にしておいてくれ。クリスマスにはまだ早いのでな・・・ノース、サーミ、戻るぞ」
そう言ってお爺さんは花屋から出て行きました。
「お爺さん待って、私」
娘さんが扉を開けた時には、サンタさんの一行はすでに山へ向かって飛んで行く途中でした。
「サンタさん、ありがとう・・・」
娘さんはそう呟き、サンタさんの一行を見送るのでした。
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