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子供達へのお話 物覚えの悪いサンタさん ⑤

  • white-eagle1958
  • 10月25日
  • 読了時間: 4分

更新日:7 日前

2025.10.25


お爺さんを乗せたソリは、空高く舞い上がって行きました。眼下には色鮮やかな瓦屋根の家並み、色づいた公園の木々、そして動き回る人々が見えましたが、それもすぐに後ろへと遠ざかって行きました。前方に海のきらめきが現れると

「あるじ、海だ。海が見える」

「海が輝いてる。綺麗ね・・・」

すると今度は、海の向こうから渡り鳥の一団が西から東へと飛んでいくのが見えました。それはお爺さんの行く手を遮るかのようでした。

「渡り鳥か・・・おかしいな・・・何で今頃西から東に?・・・何かあったのかな?」

お爺さんは一人呟くのでした。

「聞いてみるか・・・ノース、サーミ、悪いが渡り鳥の群れによってくれないか?確かめたい事がある」

「了解、あるじ」

ノースとサーミは足並みを揃えて、渡り鳥の群れに近づくのでした。


渡り鳥はカモの群れでした。お爺さんのソリはそれと並んで飛んでいます。

カモたちは隊列を組んでいました。

「お~いお前さん方、西の国に居たんじゃないのか?何で東へ?」

するとカモたちが口々に言うには

「人間が戦争を始めようとしてるみたいだからさ」

「全く迷惑よね、御蔭で引っ越ししなくちゃならなくなったのよ」

「移ったばかりでまた移動、年寄りには堪えるよ、ほんとに・・・ちょっと休ませてくれ」

そう言うとそのカモはソリに入って来たのでした。

「こりゃ楽ちんだ」

すると次々にカモたちがソリに入って来て

「楽ちん、楽ちん」

遂にはカモたちのリーダーもソリに入って来ました。

「お前さん方は何処へいくのじゃな?」

「私か?私は・・・え~と、何処へ行くんだっけ?」

「あるじい、また忘れたのか?」

ノースはあきれた様な顔をしました。

「大丈夫、私達が覚えてる。森と湖の国よね?」

サーミがそう言うと、お爺さんは我が意を得たりとばかりに

「そうそう、それそれ」

と言うのでした。それを聞いたリーダー格のカモが

「森と湖の国?あんた達気を付けな。どうも噂じゃそこが戦場になるみたいだぜ。詳しい事は知らないが・・・俺達はそれで逃げて来たって訳さ」

「巻き込まれたんじゃ敵わないわよね~っ」

一羽のカモが翼をばたつかせました。

「ここでばたつかせるなよ、痛いじゃないか。狭いんだから」

「あらごめんなさい、避けると思ったのよ、あんたとろいわね」

「何だと、嘘つけ、そんなこと考えるものか、あんたが」

カモたちが騒ぎ始めるのでした。すると物思いにふけっていたお爺さんが

「・・・・・・そんな事になっていたのか・・・」

「お前さん方、悪い事は言わん、此処から引き返した方が身の為じゃぞ。そんな所へ行っても、ろくなことはない」

「だが、どうしてもそこへ行かなければならないんだよ、プレゼントの中身を聞く為に」

「あんた、サンタさんか?・・・そんな恰好をしていたから、気付かなかったが・・・」

「へ~っ、貴方がサンタさんなの?赤い服はどうしたのよ、もしかして盗まれた?」

「盗まれてはおらんよ、これは普段着だ。クリスマスにはまだ早いのでな・・・」

お爺さんは苦笑するのでした。

「貴方も大変じゃのう。無事にクリスマスを迎えられるよう、願っておるよ」

「有難う、何とかするよ・・・」

お爺さんの言葉が終わるのを待っていたかのように、リーダー格のカモが

「さあ、一休みはこれ位にして旅を続けよう。夕方までには目的地にたどり着きたい」

そう言うと真っ先にソリを後にしました。

「え~っ、もう少し休みたかったのにい・・・」

しぶしぶ残りのカモたちが飛び出していきました。

「サンタさん、お元気で」

「トナカイさんも、また会えるといいわよね」

「あんた達も、無事付く事を祈るわ」

お爺さんとトナカイ達は、カモの一行を見送るのでした。

お爺さんは沈んだ顔をして、黙り込んだままでした。

「どうした?あるじ、浮かない顔をして・・・引き返すのか?」

「・・・引き返すわけにはいかんよ、欲しいものを聞かないとな」

「そうよ、それでこそサンタクロースよ」

カモの一行を見送った後、暫くして視界の遠くに雪で覆われた山々が入って来ました。

陽はもう沈みかけています。

「あの山を越えたら、森と湖の国だ。今日はあの前で宿泊しよう。皆疲れたろうからゆっくり休もう」

「了解、あるじ」

「お腹もすいたしね、ご飯、ご飯」

「ニンジンとジャガイモ入りだぞ、楽しみにな」

「それは嬉しい」

お爺さんたちは、夕日の中を茜色に染まり始めた山々に向かって飛んでゆくのでした。








 
 
 

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