子供達へのお話 物覚えの悪いサンタさん ⑳
- white-eagle1958
- 2025年12月28日
- 読了時間: 6分
更新日:2025年12月31日
2025.12.26
サンタさん一行が山を越し、脅しと暴力の国の軍事基地の照明を目にしたのは、夜明け前でした。雪も峠を越したのか時折ちらほらと舞うだけです。それがうっすらと大地を覆っていました。サンタさんは基地から少し離れた所にソリを止め、アーリャとリューリクを下ろし、トナカイ達の鈴を外しながら
「ここなら見つからないだろう。私はこれから基地に入る。2人は此処で待っていてくれ。後でトナカイ達を寄こす。それまで辛抱してくれ」と言いました。
「大丈夫だよ。僕がアーリャの傍にいる。心配ないよ」
「サンタさん、一人で大丈夫?」
サンタさんはソリに乗り込み、手綱を握って片目を瞑り、右手の親指を立てて言いました。
「大丈夫、心配ない。ノース、サーミ行くぞ」
「了解、あるじ」
「皆、行くわよ」
言うや否やソリが動き出し、基地に向かって飛んで行きました。
その頃基地の内部では、前日からのクリスマスパーティーの余韻がまだ残って居ました。
食堂では何人かのサンタクロースの姿をした隊員達が、未だにビールの大ジョッキを片手に騒いでいます。どうやらビールの飲み比べをしている様でした。
「オドス、ケル、用意は良いか?」
頭をツルツルに剃り、いつも苦虫を100匹ぐらい噛み潰した顔をしているナグル司令官が2人に目を遣りました。
二人とも随分飲んだと見え、赤ら顔で目はとろんとしています。
「これで決着つけてやる」
「何を~、先にぶっ倒れるのは貴様だ」
テーブルの前には、2人の大ジョッキが互いに2つ空いており、かなりの紙幣が山に成って居ました。2人の視線を受けたナグル司令官は,両手を上に持ち上げる仕草をして
「GO」
と号令を掛けると、2人はほぼ同時にジョッキに口を付け、飲み始めました。が、
オドスの口から飲みこぼしのビールが流れ出してきました。オドスが苦悶の表情ですが、ケルの方はグイグイ飲んでいます。やがてオドスの眼球が上に挙がるとそのまま後ろに倒れました。派手な音がしたと同時にケルの右拳が天を指そうとしましたが、それは途中で力を失いケルも後ろに倒れました。それを見た観衆から一斉に歓声が沸き上がり、それは基地中に響いたのです。
「勝者はケル。こいつはケルに渡してやれ。それからこいつらを部屋で寝かせてやれ」
ナグル司令官はそう言い、食堂を後にしました。
広大な軍事基地。それは見渡す限りにフェンスに囲まれ、端は地平線の向こうにまで続いている様でした。サンタさんのソリは、フェンスの少し上を飛んでいます。視界には幾つかの建物が入って来ていました。アンテナの立った司令塔、隊員たちの宿舎、整然と並んだ格納庫と倉庫、数十両に及ぶトラックと軍用車が列を作って居ました。
サンタさんは格納庫の陰にソリを止め、空になった5つの大袋を担いでソリから降りました。そして心配顔のトナカイ達に
「ノース、サーミ、アーリャの所で待機して居てくれ。合図をしたら頼むぞ」
「了解、あるじ・・・でも合図が無かった場合は?」
「・・・その時は・・・」
サンタさんは一瞬言葉を飲み込み、次にこう言いました。
「ノース、サーミ。2人を連れて家に帰してやってくれ」
「・・・・・・」
「・・・任せといて」
そう言うと、トナカイ達は基地を離れて行きました。
「さあて、やるか」
そう言うと、サンタさんは格納庫の一つに近づいて、シャッターのすぐ脇のドアをカギを使って開け、中に入りました。その中には20機ほどの軍用ヘリコプターが整然と並んでいました。サンタさんは大袋の一つを手に持って、閉じ紐を引っ張ったのです。するとヘリコプターが次から次へと浮かび上がり、大袋の中に吸い込まれて行きました。最後のヘリコプターが吸い込まれると、サンタさんは膨らんだ袋を担いで、ソリから降りた倉庫へ行ったのです。そこで袋を下ろし、今度は隣の格納庫に向かい、同じ様にカギを使い中に入りました。
その格納庫には、戦闘機がやはり20機ほど並んでいました。サンタさんは同じく大袋の閉じ紐を引っ張ると、今度は戦闘機が浮かび上がり、次から次へと戦闘機が吸い込まれて行きました。戦闘機を吸い込み終わると、サンタさんは再び倉庫へ戻り、今度は隊員宿舎へと向かいました。そこに有ったのは数十両の軍用車と軍用トラックだったのです。
「おい、誰だ?サンタが外に出てるぞ。勝手に外に出ては困るな。誰か呼び戻してこい」
警備室で監視カメラの映像を見ていた隊長が、眠そうな目をした部下に命じました。
映像には、大きな袋を2つ担いだサンタクロースがどこかへ向かっている姿が在りました。
「大方酔っぱらいですよ・・・まったく誰だ?手間取らせやがって」
ボコルは欠伸を噛み殺しながら、司令塔の入り口ドアの前に立ちました。忽ちドアが左右に開きました。
「??????あれ?いつもと風景がちがうな?何故だろう?」
次の瞬間ボコルの眠気が吹っ飛びました。信じられない光景を見たのです。彼の目に映ったのは広々とした駐車場でしたが、そこにはあるはずの軍用車が一両も無かったのです。
「うわあああああああああああああああ」
ボコルの恐怖の叫びが司令塔を振るわせました。
「何だ?どうした?」
叫びを聞きつけ、駆け付けた司令官や隊員達が見たのは、入り口で腰を抜かし、青ざめた顔で前方を指差すボコルの姿でした。
「どうした?何があった?」
「あ、あれを・・・」
「あれ?あれってなんだ?」そう言ってボコルの指さす方を見て観た時、一同声を失いました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「車両は何処行った?あれだけの数の車両は何処へ消えた?」
ナグル司令官の頭脳は在り得ない光景にしばし思考停止に陥りましたが、すぐに命令を次々と出しました。
「・・・あのサンタか?・・・とにかくそいつを探し出せ。急いでだ。すぐにヘリコプターを出せ。それから皆に戦闘準備をさせろ。早く」
言うや否や司令官は自分の部屋に、隊員たちはロッカールームへと散りました。
司令官が武装を整えて部屋から出て来ると、部下から驚愕の報告が待っていました。
「ヘリコプターが一機も無いだとお?ふざけるな!私がそんな報告を信じるとでも思っているのか?」
ナグル司令官は完全にブチ切れたようです。確認すべく第一格納庫へ駆け足で向かいましたが、そこに更に事態をエスカレートさせる報告が入ったのです。
「お前たちは私をからかっているのか?戦闘機もないのか?一機も?」
「何処にも在りません」
その言葉を聞くや司令官は頭から湯気を出さんばかりに激怒し、報告者を殴りつけました。
可哀想な報告者はその場に延びてしまいました。
「一体何が起きた?誰がこんな事を?・・・第3格納庫は、どうなっている?何か在ったら何でもいい、動かせ、報告は必要ない」
「はい司令官」
「判ったら直ぐに行け。グズグズしてると八つ裂きにしてくれる。いいな?」
ナグル司令官の怒鳴り声が基地中に響き渡るのでした。
数分後、連続爆音と共にヘリコプターが数機、姿を現しました。それは地上に光を投げ、あちこちを飛び回り、捜索を開始したようです。
その中の一機が、倉庫の陰にいたサンタさんを光の中に捕らえました。すぐさま
「倉庫の陰に不審人物を発見、集合せよ」と連絡が飛びました。
「了解、そちらへ向かう」
各ヘリコプターが明け方近くの空の中で、大きく旋回し始めました。
「まだ残っていたか・・・」
サンタさんは眩しく光るライトの中で、目を細め呟きました。手には最後の大袋が握られています。
「もう逃げられないぞ。大人しく投降しろ」
ヘリコプターから呼び掛けがあり、その背後から幾つかのヘリコプターの光が迫って来ました。
「仕方ない、退却だ。メリークリスマス!」
サンタさんは、大声でそう叫びました。
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