子供達へのお話 物覚えの悪いサンタさん ⑲
- white-eagle1958
- 2025年12月22日
- 読了時間: 11分
更新日:2025年12月23日
2025.12.22
「アーリャ、起きてくれ。アーリャ」
「ん~、誰?私まだ眠りたい・・・」
サンタさんが窓越しに話しかけましたが、アーリャは布団の中に潜り込んでしまいました。
サンタさんは困り顔・・・
「どうする、あるじ・・・」
「可愛い子だよね、あるじ」とピレリが言いました。
「良く寝てる・・・」とエンネ。
「此れから行くんだろ?え~と、何処だっけ?」
「オラルまで忘れてどうすんの?あるじじゃあるまいし・・・」とロッカ。
「・・・・・・・・・・・・・」
「ま、とにかく起こさないとね、この子を・・・」とサーミ。
「早くしないと時間がないですよ、あるじ」とバルト。
「この窓開けちゃえば?あるじ」とサイマが言いました。トナカイ達が口々に話しているのを聞きつけたのか、アーリャはベッドから身を起こし、目をこすりこすり
「ん~、誰よ、うるさいなあ・・・」と言い、目を開けましたが、そのまま固まってしまいました。見ると窓の外に赤い服を着たお爺さんと8頭のトナカイがこちらをジッと見つめていたのです。アーリャは危うく大声を出しそうになりましたが、見覚えのあるお爺さんが必死の形相で口元に指を当てていたので、両手で慌てて声を押さえました。
「ふう、如何やら何とかなった・・・」
お爺さんは大きなため息をつきました。
「・・・サンタ・・・さん?」
「如何にも・・・でも良かったぞ。思い出してくれて・・・そうでなかったらどうなっていた事か・・・」 すると好奇心の強いピレリが
「その服なんて服?見た事ない」
アーリャはトナカイが口をきいたので、驚きの表情をしましたが、やがて落ち着いたのか
「これ?・・・パジャマと言うの。寝る時に着るものなのよ」
「へ~、随分と薄いんだね。あるじとは大違いだ」
「あるじは寒がりだからね~」とサイマが言いました。
「あ~、ピレリ、サイマ、その話は後にしてくれ。皆もな。今はそれどころじゃない」
サンタさんの制止に皆静かになりました。アーリャは恐る恐る
「サンタさん、どうして此処に?」と言いました。
「忘れたのかな?此れから君へのプレゼントを渡そうと思ってな」
「プレゼント?プレゼントってあの・・・」
「そうだよ、君が欲しかったあのとんでもないプレゼントだ。用意できたから此れから君に引き渡したいと思っている。一緒に来るかね?」
その問いにアーリャは簡抜入れず
「うん、行く」と答えました。サンタさんはこの子は行動的だなと思いながらも
「では早速準備して。外は寒いから念入りにね」と言いました。
アーリャは即座にソリ遊びをしていた時の服装に着替えつつ、思いついた様に言いました。
「あの、お願いがあるんだけど・・・いい?」
「何だい、アーニャ・・・だったかな?」
サンタさんの問いにアーリャはたちまち不機嫌になりました。
「違います。アーリャです」
「あるじい・・・またやったのか?」とノース。
「困った人ね・・・」とサーミ。
サンタさんは2頭をジロリと見ると
「悪かった、悪かった・・・でアーリャ、お願いとは何かな?」
「友達のリューリクも一緒に連れてって欲しいの。この家の執事の子なんだけど、とっても器用で元気で礼儀正しいの。私リューリクが居るととても安心できるの。だからお願い」
サンタさんは最初戸惑った様ですが、アーリャの真剣な眼差しに撃たれたのか
「・・・わかった、君がそう言うのなら信じよう。早くその子を連れて来なさい。此処で待ってるから」
「ダメなの。リューリクは2階には入れないの。居場所教えるからそこで待ってて」
「そうか、主人の居住区には勝手に入れないのだな。分かった・・・」
アーリャは紙とペンを持ってきて、屋敷の見取り図を描きました。
「ここが大広間で、リューリクの部屋は此処。執事の隣。外で待っててね」
「判った。そこで待つとしよう。着替えが終わったら早速行きなさい。時間が惜しい」
「はい、サンタさん」
アーリャはそう言うと静かに部屋を出て行きました。
「あるじい・・・大丈夫かなぁ・・・何か心配だな・・・」とロッカが言うと、オラルが
「何か嫌な予感がする・・・」
「まあ、アーリャを信じよう。さあ、こちらもその部屋の外で待機だ。急ごう」
「了解、あるじ」
「あるじはお人好しなのよね」
とノースとサーミが言い皆を先導するのでした。
「リューリク、起きて。リューリク」
アーリャは辺りを見回し、リューリクの部屋のドアを注意深くノックしました。隣は執事の部屋で在り、前は護衛官の部屋です。護衛官はクリスマスイブを祝ってか酔いつぶれている様ですが、起きてる護衛官も居るようです。ですがリューリクは遊び疲れの為か寝入っているらしく何の反応も在りませんでした。
「起きて、起きてよ、リューリク」
すると護衛官の部屋から
「何だ?声がするぞ。誰か様子を見てこい。セリム、ボルグお前達でな」
「はい、エミール護衛官長」
髭面のボルグは直ぐに立ち上がりましたが、まだ若いセリムはまだ酒が残っているのか、赤ら顔で眠そうでした。
「え~、せっかく良い気分だったのに・・・」
「馬鹿者、シャキッとせんか」
ボルグはセリムの腕を引っ張り上げて立たせるのでした。
「行くぞ」
ボルグ護衛官は、セリムの腕を掴みながらドアへ向かうのでした。
それを聞いて居たアーリャは、気が気では在りません。
「どうしよう、見つかっちゃう」
アーリャは焦るばかりでした。
「何だか様子がおかしいぞ、あるじ」
ノースが心配そうな顔を向けました。
「・・・ドアが開けられないのかも知れないな・・・」
「きっとそうよ、この子も起きる気配がないし」とサーミ。
「困ったな。どうすれば良いのか・・・」
サンタさんは良い思案が浮かばず困り果てていましたが、そこへカイヌーが
「カギ使えばいいんじゃないの?」と言いました。
サンタさんはハッとして
「そうだ、そうだったな。カギを持っていたんだ。ありがとう、カイヌー」
「急いで」とサーミ。
「判っている」と言うやサンタさんはカギを振りました。
するとカチリと音がしてリューリクの部屋のドアが開いたのです。
間一髪、アーリャは部屋に滑り込み、静かにドアを閉じました。
外では複数の靴音がし、
「セリム、お前は広間まで見てこい。私は奥まで確認する」
「了解」
その声が聞こえると、足音がしてリューリクの部屋の前に停まりました。アーリャはとっさに身を屈めました。のぞき窓から中を確認したのか、足音は遠ざかって行きました。
やがて
「こっちは異常なしだ。そっちはどうだ?セリム」
「こっちも異常なしです。ボルグ護衛官」
「何だったんだろうな?あの声・・・アーリャお嬢様の声にも聞こえたんだが・・・」
「アーリャお嬢様がこんな所に来るはずないですよ。今頃お休みになってますって」
「・・・それもそうだな・・・」
そう言うと二人は部屋に戻ったのか、ドアが閉まる音がして辺りは静になりました。
「ふう・・・」
息をひそめていたアーリャは大きく息を吐きだし、リューリクのベッドに向かいました。
リューリクはすっかり寝入っていて、起きる気配も見えません。
アーリャは大きくリューリクの身体を揺さぶって
「起きて、起きてよ、リューリク」
「・・・何だよ。誰だ、こんな時間に・・・あっ、アーリャ」
その言葉が終わらぬ内にアーリャはリューリクの口を手で塞ぎ、
「お願い、静にしてて。事情は話すから・・・」
リューリクはいきなりの出来事に驚いて居たようですが、事情を察したのか頷きました。
「いったい何?こんな時間に・・・」
「此れから私と一緒に来て」
「何で?」
「いいから、早く此れに着替えて」
アーリャは暖炉の横にあるリューリクの冬服を放り投げて寄こしました。
「急にそんな事言われたって。一体何なんだよ」
「とにかく急いで着替えてよ。後で説明するから」
「・・・わかったよ、着替えりゃいいんだろ、着替えりゃ・・・」
リューリクはしぶしぶ着替え始めました。
「それからこれもお願いなんだけど」
「まだ在るの?、本当になんなんだよ?」
リューリクはズボンに足を通しています。
「決して大声出さないでね。お願いよ」
リューリクは訳が分からないまま、アーリャの必死の表情に、指示に従いました。
コートに帽子、そしてマフラーを身に付け、長靴を履いて準備完了です。
「これからどうするんだ?」
「窓から外へ出るの。いい?決して大声出さないでね、お願いだから・・・」
「まあいいけどさあ・・・」
リューリクはそう言って窓のカーテンを開きましたが、その瞬間
「うわあああああああああああああああ」
リューリクが腰を抜かさんばかりに驚き、その大声が全館に響き渡ったのです。窓の外には赤い服を着たサンタさんと8頭のトナカイがこちらを見ていました。すると今度は
「リューリクのばかあああああああああ」
アーリャの叫びが全館に響くのでした。
「何だ?今の叫びは?何が起きた?」
一番最初に反応したのは護衛官たちでした。彼等は一斉に飛び起き、手元の銃を手に取って廊下に出ました。
「あれはリューリクの声だよな?」
「アーリャお嬢様の声もしたぞ、一体どうなっている?」
「セリム、行って確認して来い」
「はい、只今」
そう言ってセリムは2階のアーリャの部屋へ向かって駆けだしました。
そこで今度は執事のアリエスの部屋のドアが開き、執事とその妻のサーヤがガウン姿で飛び出してきました。
「何が起きた?状況は?」
「まだ判りません。私達も今来たところで・・・」
「リューリク、何があったの?アーリャお嬢様もそこに居るの?開けなさい、リューリク」
サーヤは取っ手に手を掛け開けようとしましたが、ドアにはカギがかかっている様でした。
「リューリク、聞いてるの?開けなさい、リューリク」
サーヤがドアをドンドンと叩きましたが、反応は在りませんでした。
そこにセリムが息せき切って現れたのです。
「大変だ。アーリャお嬢様が部屋にいない。リューリクと一緒にいるんじゃないか?」
「何で?」
「俺にわかるかよ」
セリムがそう言ってると、スオ社長と妻のラウラがやはりガウン姿でやって来ました。
「アーリャ、何やってるんだ?怒らないからドアを開けなさい」
「アーリャ、アーリャ」
ラウラは気が動転したのか名前を呼びかけるばかりでした。
「どうしよう・・・大騒ぎになってる・・・」
アーリャはドアの外の喧騒にどうしていいのか分からなくなりました。
「アーリャが来るからだ」
「リューリクが大声出すからでしょ。出さないでって言ったのに」
「アーリャだって大声出したじゃないか、リューリクのバカって」
「・・・2人とも、喧嘩は良いから早くこっちに来なさい。早く出かけないと・・・
皆が来る・・・」
サンタさんは邸宅の灯りが次から次へと点るのを見て、2人を促しました。
「急いで」
サンタさんは2人に手を伸ばして言いました。
「急いで合鍵を」とラウラ。
「そんな事して居る暇はない。2人ともそこを離れて。ドアをブチ破る。セリム、ボルグ
頼む」スオ社長はラウラとサーヤの2人をドアから引き離すと、行くぞと言う掛け声と共にセリムとボルグの3人でドアに体当たりをしたのです。木が壊れる音と共にドアが外れました。セリムとボルグの2人がドアを大きく開け、中に飛び込むと2人がそこに見た物は、やはり赤い服を着たサンタさんと8頭のトナカイとソリに乗り込むアーリャとリューリクの姿でした。
「うわあ・・・・・・」
「な、何だ?これは?」
2人があっけに取られて、茫然と立ち尽くしていると
「何をしている、早く捕まえろ」との護衛長の声が2人を正気に戻しました。
慌てて窓際まで駆け寄りましたが、その時はもうサンタさんの姿はなく、ただ鈴の音が残っているだけでした。2人が窓から首を出していると
「馬鹿者、早く追いかけろ」と護衛長官の叱咤が飛ぶのでした。
始め暗かった邸宅が、今や全館灯が点り、玄関からは寝間着姿の人々が次から次へと吐き出されていました。外は未だに雪がちらついています。
サンタさんのソリは、もう敷地外に出ようとしていました。
「そのソリ待て~っ、待つんだ~」
セリムとボルグは駆け足で追いかけて行きましたが、足が坂道に掛かった途端、滑って雪とキスをしました。そのまま飛行機の様に坂を滑り降りて行ったのです。
次に走って来たのは執事とその妻でした。
「リューリク、何処へ行くんだ、言いなさい」
「リューリク」
2人も坂道に入った途端、足が夜空を指し尻もちを突いたまま坂を滑って行きました。
後に続いたのは、スオ社長とその妻も居って来ましたが、前の人達を見ていたのか慎重です。
「坂がツルツルだ。ラウラ気をつけて」
「誰がこんな事を・・・」
2人は慎重に坂を下りていましたが、そこへ女召使のキーラが走りこんできたのです。
「旦那様、奥様、大丈夫ですかあ」
その言葉が終わらぬ内に、キーラが前のめりになり夫妻の下に突っ込んで行きました。
何で堪りましょう、夫妻は大きく目を開いたまま、3人団子状態で坂を滑り降りて行きました。坂の下には幾つもの雪だるまが立って居る様でした。
雪だらけで真っ白になった大人達に、アーリャとリューリクの声がしました。
「大丈夫、必ず帰って来るから心配しないで」
「アーリャの傍には僕が居るから」
「リューリク、帰って来たら、みっちり説教するからなあ」
執事のアリエスが言うとスオ社長が雪を払いながら
「まあまあ、子供達を信じよう。それにあのサンタはそんなに悪い人じゃなさそうだ」
と言って、鈴の音を響かせながら遠ざかっていくソリを見送るのでした。
サンタさんは次から次へと転げ落ちて行く人々を眺めながら、苦笑交じりに2人に聞きました。
「お前さんたち、何やった?」
「へへ、ちょっとね・・・」とリューリクが舌を出し、
「少し遊び過ぎちゃった・・・」とアーリャが肩を竦めました。
「まあ、いい、少し時間が掛かり過ぎた。ノース、急ごう。飛ばしてくれ」
「了解、あるじ」
トナカイ達はスピードを上げ、夜空を駆け抜けて行きました。
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