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ショートストーリー 極上のワイン

  • white-eagle1958
  • 6月10日
  • 読了時間: 3分

2025.06.10


或る時、或る場所にて、ワインを楽しむ夕べが開催されています。

主催者が誇らしげに話し始めました。

「ようこそ、お集りの皆さん、本日はワインを楽しむ夕べの会に多数参加頂き、誠に嬉しゅうございます。ご用意いたしましたワインは何れも極上の品ばかりでございます。皆様には心行くまでご堪能頂けるものと私どもは自負して居ります。挨拶はこれ位にしておきましょう。昔から長話は楽しみの敵ですからな。皆様に石を投げられる前に切り上げておきます。

まず1本目は、1966年ベトナム戦争時のジェファーソン作戦のものです。

この目の覚める様な赤ワインと多少粘性のある白ワインは、当時の犠牲者2194人の血と家族の涙で醸造致しました。実に味わい深い苦しみや悲しみ、そして絶望が微妙なテイストを

醸し出しております。皆さんも遠慮なさらずどうぞ・・・」

「う~ん、しかしまだ絶望が足りないな」

「苦悶も足りないんじゃない?少し物足りないわね・・・」

「・・・さすが通で在りますなあ・・・では、2本目に参りましょう。2本目は苦悩と恨み憎しみが加味されたものと成っております。1994年のルワンダ虐殺にて製造されたものでありまして、殺害された犠牲者は100万人、濃厚なテイストを生み出しております。

皆さんにもきっと満足して頂けるものと思います。阿鼻叫喚の叫びがたまらぬ味わいで在ります。皆さんもきっとご満足頂ける自信作で在ります」

「う~ん、でも香りが足りないんじゃない?涙の塩分も乏しいみたい・・・」

「いや、此れは中々の1品だな、私は気に入った・・・」

「ありがとうございます。でも此れでも満足頂けない方が居られる・・・

それではワインメーカーの矜持に関わります・・・よろしい、それではそのお方にもう1本お出ししましょう」

「何、それ?まだ在るの?」

「実はとっておきの秘密のワインがございます」

「秘密のワイン?興味をそそるわね」

「そうでしょうとも、私どもは此れを手に入れるのにどんなに苦労した事か。これはまだ世に知られていないワインで在りまして、別名地獄のワインとも呼ばれており」

「そんなのはどうでもいいから、早く出しなさいよ。もったいぶらないで」

「失礼を致しました。ではお出ししましょう。2022年もの秘密のワインがこれです」

「色鮮やかな赤ね~っ。香りが何とも言えず・・・産地は何処?」

「それはまだ言えないのでございます。何せ秘密で御座いますので・・・お味はいかがでしょうか?」

「凄いわね、このワイン。断末魔や阿鼻叫喚が一杯ね。まさに地獄の味わいね・・・犠牲者は如何ほどに?」

「良くぞ聞いてくれました。400万人以上で御座います。中には生きたまま腹を切り裂かれ、内臓を摘出されたものも多数含まれております。彼等の最期はどの様なものであったのか?それを思うと私は陶酔を禁じ得ません。願わくば、その場に居合わせ、彼等のその顔を見たかったのでございます・・・」

「貴方、悪魔ね・・・」

「私どもにとって、それは一番の誉め言葉で御座います」

悪夢は続く・・・

 
 
 

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