ショートストーリー チャンピオン
- white-eagle1958
- 9月25日
- 読了時間: 2分
更新日:9月26日
2025.09.25
男はまだ立って居た。相手はハードパンチャー、腕が痺れる程の痛烈なパンチを幾度も受けながら・・・顔は膨れ上がり、瞼から血を流し、意識はもう既に朦朧としているのだろう。
眼からは光が失われていたが、それでも男は立って居た。
ガードを突き破ってパンチの強撃が彼の顔面にヒットした時、男は崩れる様に倒れた。
薄れゆく意識の中で、彼はテンカウントを聞いていた・・・
「負けたな・・・チャンピオン」
友人と思しき男が彼に声を掛けた。彼の目は塞がっていて、元の端正な顔立ちは崩れてしまっている。つい先ほどまで腰に在ったベルトはもう無かった。
「負けたよ。思いっきりな・・・奴は強いな、初めの一発で意識が飛んだ。後は良く覚えていない・・・奴はどうしてる?」
「お前がぶっ倒れた時、大歓声の中両拳を天に突き上げて吠えまくっていたぜ。見たくもなかったけどな・・・」
「新チャンピオンの誕生か・・・俺の時代は終わったんだな・・・」
「これで良かったのか?もっとやれたんじゃないのか?俺はまだ信じられない。奴は確かに強い。だけどお前はまだ衰えちゃいない。勝てたんじゃないのか?」
「・・・お前、それを言いに来たのか?よせよ、やめてくれ、俺は負けたんだ・・・」
「しかし」
「俺は負けたんだよ!・・・もう終わった事だ。これ以上言わないでくれ」
「・・・これからどうすんだ?・・・」
「さあなあ・・・まだ考えていない。差し詰め、普通の男にでも戻るか・・・」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、お前は嘘を言っている!お前は」
「言うなよ!」
男が突き放す様に言った時、友人はドアを蹴とばす様に出て行った。
「馬鹿野郎、ドアが壊れるじゃねえか・・・」
男はポツリとそう言った。
世界陸上の選手に捧ぐ
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