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ショートストーリー その旗

  • white-eagle1958
  • 9月21日
  • 読了時間: 2分

2025.09.21


初老の男が一人、部屋の中で大事そうに包まれた包みを紐解いておりました。

現れたのは年を重ねたと思われる木箱。

男はそっと蓋を開け、中から布を取り出し、懐かしそうにそれを眺めて居りました。

「親父、何だい?その薄汚れた布は?」

「お前か・・・これは或る人から私が受け継いだ旗だよ。何時かこれをぶっ立ててやろうと思ってな・・・」

「なにこれ?親父い、こんな薄汚い旗なんかどうすんだ?・・・これは血の跡か?この旗血まみれじゃないか・・・これは・・・まだ新しいな・・・」

息子は男から布を取り上げて広げ、言うのでした。

「・・・お前には判らんよ、これはその人がその前の人から受け継いだものだ。その前の人も、その前の人から受け継いでいる。そうやってな、大勢の人の思いが此処には在る。

お前のような者が触るんじゃない」

男はそう言って、息子から旗を奪い返すのでした。

「なんて書いてあるんだ?」文字は掠れて、所々血で汚れ、判別できませんでした。

「お前には読めないよ・・・」

「親父には読めるのか?」

「判るさ、文字は読めなくとも、思いは此処にはっきりと記されている。その人達の思いが・・・」

「危険な旗なのか?こんな旗ぶっ立ててどうすんだよ」

「そう、危険な旗だよ、これは・・・だけどなあ、誰かが立てないと、同志が集まれないじゃないか・・・何時かこの旗ぶっ立ててやる!」

「やめてくれよ、そんな事・・・危ないじゃないか」

「私には夢が在ってな・・・この旗を立てた時、こう叫ぶんだ。(みんな集まれ!私はここに居る!)と・・・その旗に掲げられた文字は・・・」

男はそれきり黙り込むのでした。





 
 
 

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