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ショートショート 見果てぬ夢

  • white-eagle1958
  • 5月2日
  • 読了時間: 3分

2025.05.02


昔、昔、大昔、一人の少年が目を輝かして、夜空の月を眺めていました。

そこへ少年の友がやって来て、

「居た居た。やっぱり此処にいたのか。いつもいつもあきないなあ・・・

何が面白くて、月ばっかり眺めてんだよ。それより祭りが始まるぜ、みんな待ってる」

「えっ、いやあの月には何が居るのかなあとか思ってさ。やっぱり人とか住んでんだろうかとか、どんな動物が居るんだろうとかさ。そんな事考えてる」

「・・・お前変わってるよ、ホントに」

「もし人が居るのなら、どんな人達だろうとか思わない?」

「思わない、思わない。そんな事より女の子の事考えてた方が、俺は好きだぜ」

「お前らしいよ、まったく・・・それよりもう一つ夢があってさ」

「何?夢って?」

「あの月にどうやったら行けるのかなあ・・・あの星には一体何が有るのだろう?どんな景色が見れんのかなあ・・・」

「は?呆れるね、どうやっても無理だと思うよ。一体どうやって行くつもりなんだよ?」

「それが判らないから、悩んでいるんじゃないか。お前どう思う?」

「あほ~っ!そんなこと考える程俺はヒマじゃねえ。それよりお祭りだ、お前もさっさと来いよ」

そう言うと友は、少年をズルズル引っ張って行きました。

月日は流れて・・・

少年が居た場所に、一人の老人が涙を流して月を見ていました。

そこへ少年が通りかかり、怪訝そうに老人を見つめました。

「あのう、お爺さん。こんな所で何をしているの?何か悲しい事でもあったの?」

老人は少年に振り返り、

「いや、何でもないんだよ・・・ただ、私の人生は何だったのかと考えたら、ふと虚しくなってね。みっともない姿を見せてしまったな・・・」

「・・・お爺さん、何かやってたの?」

「私には夢が在ってね、その夢を何とかして叶えようとして、色々考えたんだが・・・」

老人は手にした図面の束に目を落としました。

「夢って何?」

少年の澄んだ瞳が老人を捉えました。老人は月を見上げて

「あの月に行く事だったんだ」

少年は眼を丸くして

「お爺さん、凄い事考えていたんだね、でも、どうやって行くの?」

「ん、それであれこれ考えて、図面にしてみた・・・」

老人は図面を広げて見せました。そこには、気球みたいのとか、鳥みたいなのとか、火を噴く筒みたいなのとか色々在りました。

「こんなに考えたんだ」

「でもなあ、総て上手く行かなくてなあ。仲間も一人減り、二人減りで、遂に私一人に成ってしまった・・・私の夢も見果てぬ夢になるのかと思ったら、急に悲しくなってね・・・」

老人は背を丸め、俯いたままでした。

「私には、もう時間が無い。この先どうしたら良いのか分からなくてね・・・」

「お爺さん、それ僕が引き継ぐよ」

「えっ!君がか?」

「そうだよ!僕が引き継ぐ。あの月に行くなんて誰も考えないよ。それが実現したら、みんな驚くよ。そうだよ、そこにはどんな人がいるんだろう。どんな動物がいるんだろう。どんな景色がみれるんだろう。考えただけでもワクワクする」

老人は懐かしいものを見たような顔をし、笑顔になりました。

「そうか、ワクワクするか・・・では、此れを君にあげよう。君なら実現できるかもしれないな」

そう言って老人は、図面の束を少年に手渡しました。

「えっ、此れをくれるの?僕に?」

図面を受け取った少年は、老人の顔を見上げました。

「そうだよ、君にあげよう。大事にしておくれ」

「分かった、お爺さんありがとう」

そう言うと少年は図面の束を抱え、嬉しそうに駆けて行きました。

老人は去って行く少年の後姿が、見えなくなるまで佇んでいました。

時は流れて・・・

1969年7月20日、人類は遂に月に降り立ったのです。



 
 
 

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