ここに正義はありますか?③
- white-eagle1958
- 2020年11月21日
- 読了時間: 4分
更新日:2020年12月1日
2020.11.21
その町のオフィス街の一角にある、30階建ての高層ビル25階に「金持専門法律事務所」は
ありました。
オフィスでは、大勢の人が忙しそうに動き回っています。
一番奥の部屋では眼鏡をかけた50代位の女性が、書類に目を通していました。
豪奢なデスクの上には、紅茶の入ったティーカップと山積みの書類があり、時々物思いに耽る度に、ゆったりとした肘掛け椅子に身を沈めるのでした。
窓の下には街並みが見え、行き交う車や人々が豆粒の様です。
「どうしたものかしらね・・・」
そう呟いた時、扉が二度ほど叩かれました。
「どうぞ、開いているわよ」
「失礼します」
澄んだ声と共に現れたのは、20代位の髪の長い女性でした。
「代表!」
声を発しながら、つかつかと早足で歩き、眼鏡の女性の前で立ち止まると怒った様に
「代表!この件、本当に受けるんですか?」
「なあに?目を吊り上げて。顔にひびが入るわよ。スマイル、スマイル・・・」
代表は小指を立ててティーカップを口にしました。
「冗談言わないでください!代表!この会社、とんでもない会社ですよ。外国でやりたい放題やってます」
そう言うと、ケースから写真の束を取り出してデスクに拡げました。そこに写っていたのは、洗剤の泡の雲海に覆われた河、腹を見せて浮かぶ大量の魚、葉を落とし立ち枯れた林、やせ衰え毛が抜けた動物たちの群れ、ベッドに横たわる枯れ木のような手足をした人々でした。
「この会社、政治家や役人と組んで汚染物質を垂れ流しにしてます。今まで訴えても無しのつぶて。自殺者まで出てます。多額のお金を払ってようやく訴訟にこぎ着けたそうです。賄賂でしょうね・・・住民から相談に乗って欲しいと頼まれました。とてもこの会社のために来たとは言えなかった・・・私は、この会社の弁護をする気になれません!」
「それでも引き受けた以上、弁護をするのが私たちの仕事でしょ」
「この状況で、どうやって弁護をしろと?無理です!」
調査員の女性は、写真を叩き付けました。
「無理でもやるのよ。それがプロでしょ」
代表は再びティーカップを口にしました。
「依頼人からは、なんて言われているんですか?どこら辺で和解、示談を考えているんです?」
「示談も和解もないわ。クライアントは勝利、或いは、訴訟撤回を望んでる・・・」
「は?」
調査員の口が開いたままになりました。
「絶対に無理!そんなの絶対に無理です。私は・・・」
調査員の口に、代表の人差し指が押し当てられました。
「まだ若いわね、貴女。そんな事ではこの世界で生きていけないわよ。こういう時の為の手段も用意しておかなくてはね・・・」
「手段? どんな手段があるって言うんですか?」
「貴女が知る必要はないの」
代表は突き放す様に言い、背中を向けました。
「そんな!代表!」
「あの~」
いきなり子供の声が聞こえて、二人は同時に入口を振り返りました。
そこには、いつの間に入って来たのか7~8才位の男の子が、デイパックをしょって立っていました。
「貴方、何か用? どうやってここにきたの?」
代表が声を掛け、上から下まで少年を眺め廻して、
ーどうも、内のクライアント関係ではなさそうね・・・-
怪訝な視線の先に、少年の澄んだ瞳がありました。
「あのね、正義を探してたらね、ここへ行けって言われたんだ」
「えっ、坊や、今なんて言ったの?」
調査員は思いがけなかったかの様に聞き直しました。
「あのね、ここに正義はありますか?」
「・・・」
二人は無言のままでした。やがて、気を取り直した様に代表が
「貴方、なんで正義を探しているの?」
「お父さんがね、この国には正義が無いって怒ったんだ。それで探しているんだよ」
「そう、正義を探しているの。私も探し続けて来たんだけど・・・時々疲れてイヤになる・・・」
「何を言っているの、貴女。そんな事でどうするの」
調査員を叱り付けると少年に向き直り、言い聞かせる様に言いました。
「正義はね、強くて、賢くなくては見つけられないわよ。そしてね、これが重要なんだけど、往々にして正義はお金のある方が持っていくの。残念ながらね・・・」
「ここにはないの?」
「坊や!}
調査員が堪り兼ねて言いました。
「ごめんね、今はないけど、この次までには必ず用意しておくから!」
「うん、分かった」
そう言うと、少年はオフィスを出て行きました。
「いいの?あんな事言って」
「・・・思わず口から出てしまって・・・」
「では、さっきのを片付けましょうか」
「代表、やっぱり私納得いきません」
「あ~うるさい。うるさい」
二人の議論は続くのでした。
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