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小説 四次元パンツ ① 騒動の始まり

  • white-eagle1958
  • 2024年5月19日
  • 読了時間: 3分

2024.05.15


当時僕は、いつもの坂を自転車で駆け上がって居ました。5月の空はとても青く、風が心地よい。両脇の新緑が目に鮮やかで、眼下には池と芝生の公園。平日の人出はまばらで少し寂しさを覚えました。汗ばみながら坂を登りきると、目下には緑に囲まれた少し風変わりな建物(前衛芸術的と評する人も居ますが)があります。そこが僕の勤務する「何でも研究所」です。所長はまだ50代、白髪交りの悪戯小僧のような眼をした男です。頭脳明晰、だけど発想が何処か変、いつも可笑しなものを作っては周囲に騒動を巻き起こす。そんな人ですが、何処か憎めない。だから助手を務めている訳で。でもその時の騒動は僕の想像を遥かに超えてしまいました。まさかその騒動が超弩級戦艦並みになろうとは、そしてこの僕が大厄災並みの悲劇に巻き込まれる事になろうとは、その時までまったく予想も付きませんでした。


「ああ、松田君。ちょうどいい所へ来たね。実は君に試してもらいたいものがあってね」

研究所のドアを開けるなり、所長にそう言われたのです。

「何ですか?試して貰いたいものって?」

「実はこれなんだが・・・」怪訝な顔をしていたであろう僕の手に、所長は一枚のトランクス(赤と黒と青のチェック柄)を乗せたのでした。

「何ですか?これ?」

「見ての通りのトランクスだが・・・」

「それにしては、この上に付いている器機は・・・」

「細かい事は気にしなくて良いから」所長は僕の顔をじっと見詰めるのでした。

「気になりますよ。大体今迄の例から言ったって、所長のこの手の話はロクな事ないじゃないですか。この前の鼻くそ穿り機だって、動きが強すぎて鼻血が止まらくなったし、その前のインキンセンサーでは、やたらと性能が良すぎてブザーが鳴りっぱなしになったじゃないですか。もうあんな事はごめんです。何ですかこんなパンツ」

僕がトランクスを所長に着き返すと、所長はそれを手に熱弁を開始するのでした。

「松田君、それは大きな誤解だ。偉大な発明は何度も失敗を繰り返すものだよ。いいかね、君。これは只のパンツではない。世界を変えるパンツになるのだ」

「世界を変えるパンツ?何をバカな事言ってるんですか」

「いいから君、暫く黙って私の話を聞き給え。そうすればこの偉大な発明の意味が分かってくるはずだ。君だって今まで渋滞中の車でトイレに行きたくなった事は在るだろ?また会議中とか、満員電車の中とか・・・」

「・・・そりゃあ在りますけどね。それがどうしたって言うんです?」

「その時此れが役に立つんだ。いいかね、その時これを操作するとだ、此のパンツの部分だけ分離移動する事が出来る。移動した部分をトイレに誘導すればそこで用が足せると言う優れモノだ。これなら渋滞を気にせずトイレに行ける。名付けて四次元パンツだ。どうだ、画期的だろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうだ?凄いと思わんか?」所長の眼が同意を求めていました。

「そんな事するより車を止めて用を足した方が早くないですか?」

「・・・分かってもらえんか・・・ でも一度試してみたいのだ。だから・・・」

所長の訴えるような眼が僕を捉えていました。

「それを僕に穿けと?冗談じゃない、だったら自分で穿いたらいいじゃないですか」

「失敗したら誰が治すんだ?君しかいないんだよ。君しか」

「大丈夫、テストは小規模だ。研究所内でしかやらんよ。特別ボーナスもだそう。いつもの十倍だ」

「十倍のボーナス?・・・それならまあいいか・・・」

「よし、決まりだ。早速準備に取り掛かろう」

所長は嬉々として奥に向かいました。

それが悪夢の始まりでした。


 
 
 

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